政府は4月13日に福島第一原子力発電所における汚染水処理の海洋放出方針を決定した。しかし、政府や東電は2015年に、福島県漁連に「関係者の理解なしに海洋放出などの処分はしない」と約束をしている。これは、2015年の原発敷地内の地下水バイパス、サブドレンの排水に関して、福島県漁連のみの認可にしたため、福島県漁連だけが批判を受けてしまったためだ。2015年のサブドレン排水を踏まえ、「ALPS処理水」の海洋放出に関しては広い議論にしてほしい、というのが福島県漁連の2015年からの要望である。
今回の方針決定前に開催された菅首相と全国漁業協同組合連合会、
福島漁業共同組合連合会との会合においても断固反対の意見が表明されていた。
また2018年の3か所の公聴会や2020年の「ご意見を伺う場」などでも、
環境放出に断固反対の意見が多かった。
にも関わらず、方針が決定されたことは、合意形成のプロセスを放棄し、
関係者の理解なしに処分はしないとの約束を反故にした許し難い暴挙である。
他国や日本国内の他の原発でもトリチウムが液体廃棄物として放出されている、
という意見もあるが、それは原発事故が発生していない施設で、
福島第一原発の条件と全くことなる。
国内法のトリチウムの告示濃度限度60000ベクレル/リットルは、その核種単体が液体に含まれる場合である。福島第一に課せられている規制は、敷地境界の追加線量が年1ミリシーベルトであり、それは、福島第一原発からの気体廃棄物や、
原子炉からの直接線などの影響も全て合算した上での数字である。
液体廃棄物にわりあてられる線量から考慮すると、海洋放出できる福島第一原発のトリチウムは1500ベクレル/リットルとなる。これは2015年からの地下水パイパス・サブドレン排水の運用目標値である。
他国の原発が、福島第一より高濃度のトリチウムを海洋投棄しているのは(それを是としているわけではないが)福島第一と違って原発事故を起こしていないからである。
そもそも、本当に環境放出する必要があるのか、タンクの置き場所は無いのか、敷地計画、タンク計画はどのようになっているのかについて、東京電力は情報を出していない。
タンクの置き場所が無いため、環境放出せねばならない、という根拠が示されていない。
そして、4月13日に海洋放出の方針を決めると同時に、
経産省は「ALPS処理水」の定義を変えた。
「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」のみを「ALPS処理水」と称すると定義を変更。
それによって、今まで「ALPS処理水」と呼ばれてきた122万㎥のうち、
90万㎥が「ALPS処理水」ではなくなった。
4月15日現在、その処理されていない水をどう呼ぶかは検討中ということである。
今までの「ALPS処理水」に関する議論は何だったのだろうか。
ALPSという装置を通過しただけで、処理はされていない、
放射性物質が残る水について議論していた、ということを海洋放出が決まった日に通知してきた。
また、ALPSは、既設ALPS、増設ALPS、高性能ALPSの3種あるが、使用前検査に合格しているのは増設ALPSのみで、あとは使用前検査には合格しておらず「HOT試験」という放射性物質を用いた試験運転中という運用をしている。
使用前検査が終了してない装置で、処理しきれてない水を「ALPS処理水」と呼び議論してきたのである。
そして、本当にタンクの置き場所がないのか、福島第一原発の敷地計画は出されていない。
このような状態では、十分な議論、合意形成をしたとはとても言えない。海洋放出という結果ありきで計画がすすんできただけである。情報開示も、決定の経緯の可視化も不十分な政府決定を「ご理解を」というゴリ押ししてくる政府のやり方は、原子力を推進してきた方法そのものである。強く抗議する。
それとともに、このような現状を知る方々が増え、
納得がいかない、と声を上げる人々と
海洋投棄にブレーキをかけられるよう力を合わせていく。