本日、参議院本会議において、
「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が可決成立した。
れいわ新選組は本法案に賛成票を投じた。
この法案の目指す部分、
世界で年間800万トンとも言われるプラスチックゴミによる海洋汚染、
それに伴う海洋生態系への悪影響などを回避・低減するためにプラスチックゴミを大幅に減らすことは、
喫緊の課題であり、必要と考えるからである。
一方、本法の中身は本質的な問題の解決には程遠いと言わざる得ない。
そこで、れいわ新選組として問題を提起する。
今、消費者に新たな負担を強いるべきなのか
本法律案では、いわゆるワンウェイプラスチック(使い捨て)のフォークやスプーンなどの合理的な扱いを「省令」で定めることで、過剰な利用を抑制して有料化や代替製品への転換を図るとしている。
一方で、小規模事業である販売事業者が、新たに投資して代替製品に転換することは考え辛い。
国が代替製品の開発に大規模な投資で取り組みを主導しない状態では、消費者へ転嫁(有料化)されるのみである。
20年以上続くデフレに、新型コロナの影響で消費そのものが冷え込んでいる現状で、税金ではないにしても、新たに消費者の側のみ負担増になる施策は疑問である。
先立ってレジ袋有料化があった。2020年7月から実施されている。根拠となったのが、2006年に改正された容器包装リサイクル法である。この法律ではレジ袋の有料化を可能にする条文が含まれていた。有料化自体は2020年に省令によって決定されている。レジ袋の有料化について唐突感があったのは法改正でなかったためである。
実施後翌年の2021年4月の日本経済新聞によれば、「環境省がレジ袋の消費量が多いスーパーやコンビニ、ドラッグストアの業界団体にヒアリングしたところ、スーパーでは有料化前の辞退率が57%だったが有料化後は80%に上昇した。コンビニは23%から75%に上がった。ドラッグストアでは使用量が84%減った」とのことである。
(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA058CD0V00C21A4000000/)
しかしながら、経済産業省などが2019年12月に示したガイドライン(指針)では、バイオマス素材の配合率が25%以上のレジ袋は有料化の対象外とされている。しかし、コンビニ各社のレジ袋は配合率が30%のものを用意しており、有料義務化の対象外の基準を満たすが結局一律で有料化された。
(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55824040Z10C20A2916M00/)
また、レジ袋ではなく、加えて紙袋まで有料化される例もあった。紙袋の有料化は環境配慮というより消費者への便乗値上げ価格転嫁ではないかとする意見もある。
(https://news.yahoo.co.jp/articles/b68a343ac29386db3505f25abe90faa15e538203)
スプーンなどワンウェイプラスチック有料化もコンビニなどの購入辞退は増加することが考えられる。使い捨てではないスプーンを持ち歩けばいいという意見もあるし、その点も一理ある。ただ、それができないときには、どうしても買わなければならないなど新たな負担増になることはある。
また、今回の有料化を可能にする法案の考え方に関して、環境に悪影響や負荷を与える行為を抑制するために課税などの負担を求めるいわゆる「バッズ課税」的考え方で肯定的に捉える考えもある。しかしながら、そのような負担は消費者だけが負うべきものではない。
将来的に環境税・炭素税の導入もこの国で議論されることもあるだろう。ただ、炭素税は、その負担の逆進性(低所得者に対する負担が重い点)が世界中の多くの経済学者らによって懸念されており、その逆進性を解消するために、一旦集めた税収を低所得者に向けて配分する「炭素配当」のような税収の再配分をすべきだという提案もある。
(https://www.wsj.com/articles/economists-statement-on-carbon-dividends-11547682910)
確かにレジ袋の有料化やプラスプーンの有料化は税金ではない。しかし、低所得者層にとってはレジで支払う数円の負担が重く感じられるだろう。
そういう意味でレジ袋やスプーンの有料化には逆進性の問題が潜在的にあると思われる。将来的に環境税の議論が行われる際に、その時の制度設計が「取りやすいところから取る」という形に傾斜しないようにする必要がある。
れいわ新選組は、この環境税的な負担の逆進性を考慮した場合、仮にそのような仕組みを将来的に導入するにしても、税収で得られたものは国民に再配分されることとセットでなければならないと考える。
トム・ヴォールファルトというドイツの哲学者は、「低所得者層に対して負担を強いることに反対する<黄色いベスト運動>の参加者と、環境運動の参加者たちが、共に街に繰り出し、社会の代案を示すことができたときにはじめて、地球環境問題が本当に前進する」と言っている。(トム・ヴォールファルト「気候変動に対する戦争よりも階級闘争を」より)
今後、社会における負担のあり方の合意形成について、この点を重視する必要がある。そして明確にその制度を法律で裏付ける必要があると考える。
今回の法案ではワンウェイプラスチックの無料配布を禁止することによって実質的に消費者に負担を課すことを可能にするものの、具体的な内容は最終的に「省令」に委任されているとのことである。レジ袋有料化のときと同じ制度設計になっている。
2019年6月の環境大臣会見において、当時の原田環境相は記者会見で、小売店などで配られるレジ袋について「無償配布してはならないという法令を速やかに制定したい」と述べ、法律を早期に整備する考えを表明していた(日経新聞、2019年6月3日)にもかかわらず、最終的には法改正が不要な省令で実施された。
(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45638030T00C19A6CR8000/)
仮に有料化を最終的に実施するにしても、省令で可能とするではなく、法案に盛り込んだ上で審議を行い、負担のあり方も含めて、丁寧な議論をすることが必要だったのではないか。野党は、今衆議院における法案審議において、曖昧な政府案に対して、有料化を明確に法律に規定する対案を提出していた。しかし、与党はその法案修正の要望を受け入れなかった。
(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g20405017.htm)
末端の消費者だけに負担を負わせるのではなく、拡大生産者責任(製品に対する生産者の責任を、使用済み段階にまで拡大する)の考え方にたつべきであるという考え方もある。拡大生産者責任については衆議院の付帯決議においても、「製造事業者のプラスチック使用製品廃棄物の回収から最終処理までの責任のあり方など、拡大生産者責任の徹底等に向けた検討を行うこと」と指摘されている。このような内容が附帯ではなく法案の中にしっかりと盛り込まれていれば、負担のあり方についても多角的な議論を行う政府内で責任が生まれたかもしれない。
この拡大生産者責任の考え方にたてば、環境汚染は生産者にその責任がある。生産者が環境汚染的なものを生産しないようにするためには、環境に配慮できる製品を製造するように中小企業に対するインセンティブを与える必要がある。
例えば、経済的支援など、単に企業の自助努力に委ねるだけではなく、国が補助金などの形で支援を行わなければならない。そのような政策的な担保はこの法案には残念ながらみられない。やはり消費者だけに転嫁することは避けるべきである。
海洋プラスチック問題の解決に必要なこと
そもそもプラスチック問題が注目されたのは、海洋における「マイクロプラスチック」の生態系への影響の問題がきっかけである。
海洋プラスチック問題では、何が最も悪影響を及ぼしているかを考慮しなければならない。海洋に流出しているプラスチックゴミは年間800万トンと言われている(朝日新聞、2020年9月13日)。
海洋プラ問題について、日本における環境省調査がある。平成28年度全国10地点(稚内、根室、函館、遊佐、串本、国東、対馬、五島、種子島、奄美)で漂着ごみのモニタリング調査を実施した調査によると、重量比でみた場合、レジ袋は全体の0.4%、カトラリー(スプーンやフォーク)は0.5%だった。一方、漁具は全体の41.8%、ブイやロープは10.7%、発泡スチロール片等は26.7%、ペットボトルは7.3%であった。
(https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-03/y031203-s1r.pdf)
要するに、深刻な問題は漁具や発泡スチロールであり、身近な例で言えばペットボトルである。しかしながら、今回はそれに対する対策を打ち出していない。小泉環境大臣が唐突にスプーンの有料化に言及したことがテレビで取り上げられた結果、問題の本質がずれてしまった感がある。
海洋国家である日本として、漁業も重要な産業である日本として、この問題の解決への目標や道筋を示さずに、使い捨てプラスチックのみに焦点を当てることは問題の本質に目を向けていないと言わざるを得ない。
世界の非常識である日本のリサイクル
また、日本のプラスチックリサイクル率は、86%(2018年)とされているが、その多くがサーマルリサイクル(熱エネルギー回収、燃やすということ)で占められている(プラスチック循環利用協会、2019年)。欧米基準ではこのサーマルリサイクルは、リサイクルに含まれない。これを含まない数値で比較すると、日本はリサイクル率19%、OECD加盟国34カ国中27位(プラスチック循環利用協会、2013年)と大きく遅れをとっている。
いかにして熱回収の比率をさげ、本来のリサイクル率を上昇させるかが、世界標準に近づくために必要不可欠であるが、残念ながら本法律ではその施策は含まれていない。海外に輸出していたプラスチックゴミの規制が強化されたため、その分を対象として考慮されていると推察できるが、世界の非常識状態を一刻も早く解消することの方が優先順位が高い。
プラスチック原料の流出による環境への悪影響が含まれていない
2000年代に入り顕在化したプラスチックの原料であるレジンペレットの海洋流出が指摘されている。レジンペレットは未加工の原料であり、製造工場に輸送され、再溶解後に最終産物のプラスチック製品へと成型される。レジンペレットは、製造過程や輸送過程において非意図的に環境中へ放出される。環境中に放出されたレジンペレットは、表面流出水や河川水によって最終的に海洋に運ばれる。
また、輸送中の船舶によって漏出してしまった場合、直接海洋に流入する。環境中での残留性により、ペレットは海洋中に広く分配され、世界中の浜辺で見つけられている。一度拡散したレジンペレットの回収は非常に難しい。
(http://pelletwatch.jp/resin_pellets/what/)
しかも石油関連の化学物質を高濃度で吸着する性質があるため、直接口から取り入れてしまう生物個体ばかりでなく、食物連鎖を通じて高次捕食者へ高濃度に蓄積される。このことによりプラスチック廃棄物の蔓延は海洋生態系の質を脆弱にし、やがては生態系の崩壊への道を暗示している(福井県、2008年)。こうした重要な問題であるにもかかわらず本法律の施策には含まれていない。
最後に
本法律によって、周回以上の遅れをとってきた日本のプラスチック政策の前進する方向性がようやく示されたことは評価する。しかし、消費者への負担や、根本問題の解決の置き去りなど課題は多い。したがって本法律に反対するということも十分選択肢であったが、れいわ新選組は、法案の方向性は賛成すべきとの立場で賛成とした。
一方で、これまで指摘した通り、解決すべき課題は山積である上に、コロナ危機にあって消費者の負担を増加させる可能性のある施策は看過することはできない。ここに、問題点・課題を指摘し、この国に本気でプラスチックごみ問題を解決する施策を要請する。