1 高すぎる社会保険料負担の軽減(国費を増額)
日本の社会保険制度をめぐる検討は、高齢化にともなう支出増加に対し、「国債発行により将来世代に負担が先送り」「現役世代の負担が年々重く」などと、高齢者世代と現役世代、将来世代を対立させ、高齢者に負担を求める議論に終始し、社会保障関係費は「高齢化による増加分におさめる」方針により様々な給付抑制策が取られてきました。(※i)
政府は、国の責任をごまかし、持続可能な制度の姿を示すこともできていません。誰もが必要となる高齢化による医療や介護、生活保障については、逆進性の強い(所得の低い人の負担割合が大きい)保険制度や消費税を財源とするのではなく、当面は国債発行により危機を乗り越えながら、長期的には累進性の高い税制度により持続的な制度への抜本改革が必要です。
以下に当面の改革案を示します。この改革により、「現役世代」の可処分所得は増え、高齢者の保険料や窓口負担も軽減できます。
(※ i) 生活保護基準、年金給付など社会保障の給付の引き上げ、給付の縮減・縮小(介護保険において特別養護老人ホームの入所資格を要介護3 以上の人に限定するなど)。
参考 鹿児島大学教授・伊藤周平氏 Gekkan ZENROREN 2020.3
(1)後期高齢者医療制度は廃止し、全額公費に
~「現役世代」の保険料負担を毎月5000円軽減、後期高齢者は負担ゼロ~
75歳以上の医療費(後期高齢者医療制度)は、医療が必要となるリスクが高い高齢者のみで保険集団を構成するため、保険方式で行うことに無理があります。実際に、高齢者の保険料は約1 割であり、公費が5 割で、(国1/3:都道府県1/12:市町村1/12)、残りの約4割を「現役世代」の医療保険から「後期高齢者支援金」として拠出しています。このことにより、世代間の分断を強めています。
当面の改革として、後期高齢者医療制度は全額公費とし、保険料と後期高齢者支援金部分を国費負担にとします(計8.1兆円)(※ⅱ)。これにより、後期高齢者、「現役世代」の保険料負担はなくなり、平均して毎月約5000円可処分所得が増やすことができます(※ⅲ)。
(※ ⅱ) 第119 回社会保険審議会医療保険部会(令和元年9 月27 日)資料2では、令和元年度予算ベースで、高齢者保険料1.3 兆円+後期高齢者支援金6.8 兆円とされる。
(※ ⅲ) 第120 回社会保障審議会医療保険部会(令和元年10 月31 日)参考資料2 では、令和元年度の「現役世代一人当たりの支援金保険料相当額」について、支援金総額を6.0 兆円として、6.0 兆円/現役世代1 億948 万人で負担=4,534 円と示している。
(2)国民健康保険・協会けんぽの国費割合を増やす
国民健康保険は、低所得者が多いにもかかわらず、保険料負担率は中小企業従業者の協会けんぽの1.3倍、大企業中心の組合健保の1.7倍以上となっています。国費を現行の41%から50%まで増やすことで、国民健康保険料を引き下げます。(約1.2兆円)
協会けんぽも、国庫補助率を健康保険法本則の上限20%にまで引き上げし、保険料を引き下げます。(約0.3兆円)
(3)介護保険の国費割合は50%以上にして保険料を引き下げる
介護保険料は20年間で約2倍にも負担が増えました(※ⅳ)。保険料を上げずに、制度の充実と財政基盤の安定化を図るため、国が出すお金(国費)を25%から50%に増やして保険料負担と利用者負担を減らします(国地方をあわせた公費負担割合は50%→75%に引き上げる)。(約3.4兆円)
(※ⅳ) 介護保険料は、2000年には全国平均2911円だったものが、2021年には平均6014円となり、2倍以上に負担が増加した。厚生労働省「第8期介護保険事業計画期間における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について」2021年5月14日
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18164.html)
(4)雇用保険の国費負担割合を上げて、保険料引き上げは行わない
新型コロナへの対応として雇用調整助成金の特例措置が行われてきましたが、これにより雇用保険財政がひっ迫しているとして、2022年にも保険料の引き上げが検討されています。失業等給付に対する国庫負担率 は本則の25%に引き上げ、保険料引き上げはさせません(※ⅴ)。
(※ⅴ) 失業等給付に対する国庫負担率は、本則25%に対し、2007年度から当分の間は13.75%とされており、さらに2017年度から2021年度においては2.5%と本則の10分の1しか国は負担していない。
(5)介護保険の利用者負担は軽減
これまで、「現役世代の負担」を理由に、一定所得に応じて、介護保険の利用者負担が2割や3割に増やされ、2022年10月以降に後期高齢者の窓口負担も2割にするとされています(安倍政権の「全世代型社会保障改革」)。必要なサービスは所得にかかわらず保障されるべきであり、利用者の2割、3割負担は廃止し、全員1割に戻し、低所得者の利用料免除・減免を制度化します。
2 介護保険の抜本改革(超高齢化には国が責任を持つ制度に)
介護保険制度は、この20年間の度重なる制度改悪により、保険負担はあっても必要なだけの支援・サービスが手にはいらない制度に成り果てています。一時しのぎの施策でなく、人口減少と超高齢化に対応した持続可能な介護政策が必要です。
(1)介護保険制度を一人暮らしの要介護高齢者を支えられる持続的制度にするために、短期的には下記の見直しをしていきます。
- 「要支援1,2」に対するホームヘルプとデイサービスを保険給付から外し「介護予防・日常生活支援総合事業」(市町村事業)に移した改悪を撤回させ、保険給付に戻す。「要介護1、2」の保険給付外しも含めて、省令や法改正による介護保険の対象者絞り込みはさせない。
※2021年4月の省令改正で市町村の総合事業の運用を弾力化し、「本人の希望」と「市区町村の判断」で、要支援者だけでなく要介護1~5までの要介護認者を総合事業の対象者にすることを可能にしました。厚生労働省は「要支援の人が、要介護に移行した場合、従来の総合事業のサービスを継続できる」「サービスの選択肢の幅が広がる見直しで、給付を制限するものではない」としていますが、人材不足が長期化するなか、ホームヘルプ・サービスとデイサービスの指定事業所の確保が危うくなれば、要介護の人に対して「総合事業」で代用することに道を拓くことにもなりかねません。
要支援者向けの「介護予防・日常生活支援総合事業」は市町村の裁量で実施され、提供されるサービスの種類や量もそれぞれの自治体任せ。サービス単価は介護保険給付より低く設定され、サービスの担い手もボランティアなど無資格者でも可能。需要が見通しを上回り予算が足りなくなれば、サービスを低下させるか利用者の負担を増やすしかない「介護給付費抑制」の政策です。
これは介護保険制度の崩壊を決定づけるもので容認できるものではありません。
元に戻します。 - 介護保険のサービスには、趣味などのために本人が自由に使える部分がなく、本人の生活を充実させる仕組みにはなっていません。物忘れや認知機能の衰えがあっても地域で暮らしていけるように、必要な時に必要な時間を保障する態勢をつくります。
- 利用者負担の軽減を計り、現役世代の平均所得以下の方は従前の1割負担に戻し、住民税非課税世帯に対する利用料免除の制度をつくる。
- 介護保険施設入居者・ショートステイ利用者の食費・部屋代の軽措置(補足給付)の切り下げは行わない。補足給付の対象をグループホーム等にも拡大する。
- 介護報酬の抜本的引き上げを行い、介護事業者が介護職員の処遇改善を図れる収入を確保する。
- 現在の介護人材は常勤換算で200万人強であるが、厚生労働省によれば、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になる2025年度には、約245万人の介護人材が必要となる(※ⅵ)。これを確保するために、処遇を公務員なみに大幅に改善する。現行の介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算は廃止して基本報酬に組み込み、まずは毎年約3兆円の国費を投じて賃金補助を行い、介護従事者の賃金は全額国費で月額10万円アップし、全産業平均に引き上げる事が必要である。(※ⅶ)従事者の社会保障も充実させるとともに、最先端のロボットや介護用具を導入して業務負担を軽減さる。
(※ⅵ) 参考:厚生労働省老健局(2019)「介護人材の確保・介護現場の革新(参考資料)」社会保障審議会介護保険部会(第79回)参考資料、令和元年7月26日(p. 7)。2
(※ⅶ) 厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」に基づく厚生労働省老健局の試算では、「賞与込み給与」は、介護職員(平均年齢43.1歳、役職者除く)の場合28.8万円であり、全産業平均(平均年齢42.4歳、役職者除く)の37.3万円よりも約8.5万円低い(「訪問介護・訪問入浴介護の報酬・基準について」、社保審・介護給付費分科会第193回、令和2年11月16日、資料13、p. 8)。これを参考に、十分な人材確保のために10万円相当の賃上げを行うものとする。245万人に対して、必要な公的資金は約3兆円となる(10[万円/月]×12[月/年]×245[万人]≒2.94[兆円/年]≒3[兆円/年])。
※月額10万円賃金アップは、常勤1人あたりとし、短時間労働者については勤務時間に応じた補助を想定しています(常勤換算方法)。介護報酬とは別に、全額国庫で利用者負担なく、全ての職種を対象に、確実に介護従事者の手に届く制度とします。具体的には、①2009年10月から2011年度末まで行われた全額国費の「介護職員処遇改善交付金」の枠組みを活用して事業者に交付、②都道府県等に介護従事者登録をし、勤務時間に応じて介護従事者に直接支給される方法などが考えられます。 - 人材確保困難と介護ロボット・ICT活用等を口実とした「人員配置基準緩和」を行わない。介護現場の実態に即して人員配置基準を改善し、人を増やす。
- 直接訪問介護に従事する時間以外の「移動時間・待機時間・キャンセル」等について労働基準法上は「労働時間」であることを認めながら、介護報酬算定においては訪問介護提供時間しか対象にしておらず、不払いが横行する要因となっている。ホームヘルパーの報酬に評価されていない移動時間・待機時間・キャンセル時間等については、介護報酬とは別に公費で負担する仕組みとする。
- 民間事業者だけでは必要なサービスの量と質がまかなえない事態や、過疎地域で訪問介護サービスを行う事業所が近くになかったり、個別の事情により介護を断られる利用者等に対応するために自治体の福祉職を増員し、「公務員ヘルパー」を創設することで民間では対応できない問題を解消します。
- ヤングケアラーと呼ばれる若者世代も、介護のために仕事や学校を辞めざるを得ない方もいます。介護をする方の自由な時間を奪っていることになります。この労働を介護職の方と施設に任せれば、本人のストレスが減って楽しく過ごせることはもちろん、介護をする為に離職や退学するという事も防ぐことができる為、生産力を落とすこともなく、学業や趣味、買い物に費やす時間も増え将来を担う若者達の学びの機会を損なうことなく、経済効果も期待できます。介護士や施設の賃金を底上げする事で、安定した雇用と産業が生まれ、社会にとっても大きなプラスとなります。
(2)長期的な制度の抜本改革
将来的に介護保険制度は廃止し、税方式にすることを検討します。その財源は、社会保険料の事業主負担を企業利益に応じた社会保障税として調達する方法が有効と考えます。
3 新しい生活保障制度(生活保護・年金制度等)
○「生きる権利」としての生活保護制度の拡充と、名称を「生活保障法」とするなど「受けやすい」制度への改革
○「最低保障年金制度」の慎重な検討
新型コロナウイルス感染拡大で3度にわたる緊急事態宣言が発出され、仕事が減ったり、失業に追い込まれる人が増えています。昨年度の生活保護の申請件数は22万8000件余と前年度より2.3%増、リーマンショックの影響を受けた2009年度以来の増加となっています。
さらに、今年3月に生活保護が申請された件数は、全国で2万2839件。前年の同月比で1809件、率にして8.6%増です。生活保護の申請件数が前年同月より増加したのは7か月連続です。厚生労働省もついにホームページで「生活保護の申請は国民の権利です。ためらわずにご相談してください」と発信するようになりました。
しかし、「生存権保障の最後の砦」と言われる生活保護の使いづらさは、決して扶養紹介などの水際作戦だけではありません。生活保護制度が憲法で保障された「健康で文化的な(最低限度の)生活保障」としての役割を果たすために、名称を「生活保障法」とすることをはじめ、必要な改革を行います。
(1)最後の砦としての生活保護制度の保護基準の見直し
生活保護は生存権保障の最後の砦です。憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」とは、具体的にどの程度の金額なのか、保護基準額が恣意的に決められないよう、その決定プロセスを透明化し、民主的コントロールを導入するために国会の議決で行うことにします(日弁連「生活保障法」提言)。
安倍政権で実施された根拠のない生活扶助基準の引き下げを白紙に戻し、「健康で文化的な最低限度の生活」にふさわしい保護基準を新しく定めます。生活保護基準は、就学援助、住民税非課税限度額、最低賃金の基準にも連動し、国民生活安定の基礎であり、決定プロセスには利用者の意見を反映させる仕組みを新設します。
(2)水際作戦の禁止と支給漏れをなくす
生活保護の申請は国民の権利であり、いろいろ理由を付けて保護の申請を受け付けないのは違法です。自治体の水側作戦を禁止し、他の社会保障制度のように、生活保護申請の手引きを窓口に置き、誰でも申請できるような環境をつくります。
また、申請をためらわせる要因となっている扶養照会(親族への照会)については、問題になっている通知を廃止します。
生活保護の「濫給」は非常に厳しくチェックするのに、「漏給」に対しては鈍感で、生活保護が必要な状態の人が実際に受給できているかの捕捉率を行政はなかなか公表しません。憲法で定められた生存権保障が実現できているのかどうか、捕捉率の算定方法を研究協議し、定期的に調査・公表する仕組みをつくり(イギリス参照)、現状の2割から大幅に高めます。相談・申請受付・調査・決定のプロセスにかかわる、相談員、ケースワーカー(都市部では1人で100世帯を担当)も慢性的な人員不足で、申請抑制の原因となっています。専門性をもった人員を増員します。さらに、保護費の給付(経済保障)と自立支援(社会福祉援助)、不正受給の防止と罰則適用を、すべて一人のケースワーカーが担当する仕組みは、保護利用者へのパワハラの温床となり、ケースワークと保護費の支給決定業務を切り分ける必要があります。ケースワーク業務については、安易に民間委託を進めるのではなく、正規公務員であるケースワーカーの専門性を高めた上で業務過多にならないように、必要な人員を確保していきます。
(3)生活保護の「単給」を受けやすくします(バラで受けられる)
今の生活保護は、完全に生活が困窮・沈没してからしか使えない(所持金の保有は最低生活費の半額以下しか認められない)問題があり、何もかも失ってからでは、立ち直りに時間がかってしまいます。また、最低生活費以下かぎりぎりの収入で、生活保護を利用していない場合、突然の入院や子どもの進学、引っ越し等で生活が立ち行かなくなることもあります。
そこで、最低生活費の少し上(例えば1.3倍)の収入でも、住宅、医療、教育などの扶助を単体(バラ)で受けられるようにします例えば、新規アパート契約する際の住宅維持費・敷金(住宅扶助)、子どもの入学準備金・教材代など(生業扶助、教育扶助)、お産の際の出産扶助など、一時的、短期的な単給で生計が維持できる世帯が必要な扶助を必要な期間受けられるよう制度を見直す事が必要です。(※ⅷ)
(※ⅷ) 生活保護には毎月決まって支給される恒常的な扶助のほかに、前述の住宅維持費・敷金、入学準備金の他、移送費、家具什器費など、必要に応じて支給される一時扶助があります。生活保護法第9条の「必要即応の原則」によるもので、毎月の生活保護費と一時扶助を合わせて初めて「最低限度の生活保障」となります。一部の扶助単給を受ける場合、こうした必要な一時扶助を見落とさないよう注意する必要があります。
単給化は日弁連も提案していますが、一部の扶助については最低生活費より少し上の収入で受けられるようにすることが重要です。基準は現行のままで単に単給にすると、最低生活費以下で生活する人が増えてしまうことが危惧されます
(4)生活保護は全額国庫負担で
生活保護の国負担を人件費を含め「10割」(全額国庫負担)とし、市町村の財政負担を理由とする実施機関による生活保護法運用上の格差をなくしていきます。
(5)最低保障年金の検討
国民年金(月額65000円)を満額受給できたとしても、それだけでは生活保護を受ける際の基準になる「最低生活費」に満たない場合もありえます。その場合には、速やかに差額の部分について、確実に生活保護制度を受けられるようにし、事実上の「最低保障年金」として、低年金、無年金者の生活を支えます。
そのために生活保護のための財源は、消費税ではなく、累進税化した法人税や累進性を強化した所得税収を当てることを検討します。厚生年金については、生活するための最低所得というよりは、現役期の所得の一定程度の保障という意味合いもあるので、現状の制度を維持します。
(6)生活保護から生活保障制度への移行
高齢者の生活保障については、当面は生活保護を活用しつつも、高齢期の所得保障のための、本格的な税方式による「最低保障年金」(国民には一定額の「最低保障年金」を導入し、国民年金と厚生年金を統合し、所得比例型の年金制度を創設する制度)については、既存の生活保護制度の充実(要件緩和)と比較し、低年金・無年金者の生活を実際に底上げできるかを考えながら、慎重に導入の可能性を検討します。
また、全ての人に、個人単位・無条件で、お金を給付する所得保障政策「ベーシックインカム」についても、既存の社会保障制度での受益を損なわないことを前提に導入できるかどうか、慎重に検討を行います。
(7)年金積立金の活用
「年金積立金」についてはその運用について、国内外株式の割合を増やした安倍政権のやり方を改め、リスクの低い債券(主に国債)の割合を増やします。一方で、現在、「年金積立金」は、厚生年金、国民年金、共済年金をあわせて200兆円にのぼり、給付費の4年分にあたります。これは、諸外国で諸外国における積立金の水準は、給付費の0~4年分程度となっている中で高い方の水準です(厚労省資料)。段階的に年間一定額ずつ取り崩して支給額に上乗せしていきます。